New Jersey Institute of Technologyのグループが、インクジェット印刷可能なニッケルインクの新たな製造方法を開発しました。
この研究成果は、Batteriesで発表されています。
この記事は下記論文の紹介記事です。
論文:
Gu, Yuan, and John Federici. "Fabrication of a Flexible Current Collector for Lithium Ion Batteries by Inkjet Printing." Batteries 4.3 (2018): 42.
近年、エレクトロニクスの発展に伴い、スーパーキャパシタや太陽電池などの蓄電デバイスの製造が注目されています。
化学的エネルギー貯蔵装置の中で、リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高容量、容易な製造プロセスおよび高い作動電圧といった優れた性能を有しています。
リチウムイオン電池は、正極と負極の集電体と、正極と負極の活物質と、セパレータと、電解質とから構成されており、市販されているカソード及びアノードは、それぞれアルミニウム及び銅で構成されています。
リチウムイオン電池は、テープキャスティング法による製造が一般的であり、形状および柔軟性をカスタマイズすることは非常に困難であるという課題を抱えています。この課題を解決すべく、様々な印刷技術による製造方法の開発が研究されています。
印刷技術の一つであるインクジェット印刷を用いたリチウムイオン電池の作製は、物理的マスクを必要とせずに、デジタルに直接描画する手法であり、薄膜が製造できることからリチウムイオン電池を製造する最も有望な製造方法の1つとして知られています。
インクジェット印刷する場合の課題の一つが材料です。正極に相当するアルミニウムをインクジェット印刷する場合、市販のアルミニウムインクは、導電性をえるために、印刷後に成形ガス中で600℃以上の温度での焼成が必要です。このような高温工程は、プラスチック基板が耐えられません。この課題に対処するため、リチウムイオン電池のカソードとアノードの集電体で最も報告されている材料は金になります。金は、魅力的な化学安定性と優れた耐食性を備えています。しかし、金の集電体は、その低い性能および経済的コスト比のために、工業生産が非常に限られていることも事実です。
上記課題に対し、近年報告されている新しい材料がニッケルです。金属材料の中でも、ニッケルはその高い電気化学的安定性のために電池にとって優れた材料であり、ニッケルがリチウムイオンと反応するのを防止する不動態化層によって保護され、さらに酸化することにより、電池内部の特定の電圧下で非常に安定になることも知られています。
ニッケルのインクかは先行研究によって既になされています。Dapeng Liのグループは、ニッケル前駆体インクによってフレキシブル基板上にニッケル導電膜を作製した研究結果を報告しています。
このインクは、ニッケル前駆体インクと還元剤を堆積させることでニッケル金属を作製する手法です。最終的に、還元されたニッケルは高い表面エネルギーを有し、一緒に結合して基板上にニッケル膜を形成する事になります。
このニッケル前駆体マルチ印刷法は、ニッケルナノ粒子から表面酸化を除去することで、ニッケル膜を製造する手法です。しかし、この印刷手順の欠点は、還元剤とニッケル前駆体の混合比を正確に制御することが困難点であり、そのため製造されたニッケル膜の導電率を低下させる化学的残留物を生成することにあります。
このニッケル前駆体マルチ印刷法の課題に対し、本論文では、フレキシブルな高分子基板上に導電性ニッケル膜をインクジェット印刷するための、新規で単純な化学反応性ニッケルインクを提案しています。
上の図は、新たに開発された化学反応焼結(CRS)プロセスの概略です。
同グループは、ニッケル導電性インクを製造するための化学反応焼結(CRS)プロセスを発明した。新たに開発されたインクは、低温焼結が可能であり、エッチング剤、還元剤といった副産物の多くは、熱焼結により分解除去されるため、化学的残留物は少ないとのことです。
印刷されたニッケル集電器は、低い電気抵抗を有し、高価な貴金属(例えば金および白金)および高抵抗炭素集電器に代わるリチウムイオン電池の集電器として使用することができると本グループは主張しています。
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